My research

 上肢欠損者の運動機能を代替する筋電義手(筋収縮時に発生する生体信号で制御する電動義手)や手指麻痺リハビリのための外骨格型パワーアシスト装置など,人とロボットの融合学問(Cyber-Robotics)の医用福祉・リハビリ応用に関する研究に取り組んでいます.「ヒトに適応する身体機械とは何か?」という問題を工学的にアプローチし,身体機能代替から機能拡張までを研究対象としています.

1.多くの運動自由度をもつ筋電義手に関する研究

多くの運動自由度もつ筋電義手

 筋電義手は,筋収縮時に体表面に発生する表面筋電位(EMG)からロボットハンドを制御する機能が付与された電動義手の一種である.個々人の身体特性の変化により個人差や時変性をもつ不安定なEMG信号を,如何にして意図した上肢動作の識別に用いるかが最大の課題であり,このような動的な信号特徴に適応し,動作意図を長期安定的に高精度で識別する機能の実現が私の主たる研究目的である.適応機能を実現するためには,義手が動的にその特徴変化を検知し,適切に動作識別する関数パラメータを調整する必要がある.しかし,一般的な動作意図識別法では,「信号の特徴空間上の分布が時間的に不変である」と仮定し事前に識別関数を設計するため,その変化に対して追従できず,その結果,十分な識別性能を得られなかった.この課題に対して,本研究では,識別関数の関数パラメータを決定するために用いる訓練データ(辞書データ)を,識別動作ごとの競合が小さくなるよう(条件付き情報エントロピー最小化)その特徴変化に応じて訓練データを修正(追加・削除)し,それを基に逐次更新することで動的に識別関数を構築する逐次学習型の動作意図識別法を構築した.訓練データの追加削除は,動作の連続性を仮定したヒューリスティックな連続尺度と上記エントロピー尺度を評価基準とする強化学習アルゴリズムにて逐次的に決定される.

 以上の方法を用いて 3 個の筋電センサから安静を含む前腕14 動作が85%以上の識別率で,連続10時間の識別が可能となった.
また上記制御系に関する研究だけではなく,「手指機能を補う五指ハンド・アーム(筋骨格系)」「人工触覚(感覚系)」にも取り組んでいる.欠損した上肢機能を補う運動自由度,把持力,重量を有するロボットハンド・アーム機構として,ワイヤ駆動方式と干渉駆動方式を組み合わせた関節を提案し,人が装着できる範囲の重量で最も発揮力が大きくなる指・手首・肘・肩関節機構を開発した.これにより前腕義手で成人男性の前腕重量に近い1.0kg 程度の重量で55Nの把持力を実現できた.

 またこのロボットハンド・アームは,生理学研究所,大阪大学医学部で取り組まれている脳活動からロボットアームを制御するBMI 研究においても技術提供しておりその有用性が示されている.さらに,人工触覚では,触知覚においてほぼ同時に異なった位置に複数の刺激を提示した場合にそれらの間に刺激が1つのみ定位される現象(Phantom sensation)を利用し,表面電気刺激によって知覚を誘発することで,義手で重要な少ない刺激電極での動的な知覚移動を誘発し,多くの義手運動感覚の提示を可能にした.さらに上記義手の応用として先天性上肢欠損で生まれた子供のための多自由度筋電義手の開発を行ってきた.子供用の義手は前述の成人用義手をただ小さく作ればよいのではなく,そこにスケール問題が生じる.すなわち小さくすれば関節などが壊れやすくなり,重量・力のトレードオフ制約を強くなる.そこで,前述の干渉駆動を用い,過度な外力が加わると脱臼し,再度動かすと元の位置に復元する指関節機構を開発した.制御面では成人に比べ子供はオペレータの指示の理解度が低く,特定の動作を行ったときの筋電位を明示的に取得することが困難となる.これは筋電から動作を推定するために用いる識別関数を創り出すための訓練データの生成が困難になることを意味する.そこで,予め出力しやすい筋電パターンを取得しておき,それに対して解剖学的知見に基づき動作を割り当て推定する方法論を確立した.これら子供用義手を成育医療研究センターと共同で5名の0歳~5歳へ適用し,現在臨床評価を行っている.

 一方,上記の身体代替機能が切断者の運動機能再建にどのように影響するかを明らかにするためfMRI による脳機能解析を行い,「義手への習熟が一次運動野の賦活領域と強度の増大及び局在化を生じさせる」「触覚のある義手によって能動的に獲得される触覚は,「錯覚」に類似する現象により,左右どちらに付与しても運動側と同側の一次体性感覚野に影響を与える」などの知見を得た.また日常生活で行う手指機能を用いる動作事例に関して日常生活動作(ADL)評価をすることで,手首動作と手指動作の複合動作の重要性を示し,健常者が行うADLの60%程度の実現を可能にし(従来手法より約10%改善),作業療法の観点から日常生活における人の手の役割を全て満足するための最低限の要求機能を満たしているということを実証した.


2.手指麻痺のリハビリのための外骨格型パワーアシストに関する研究

手指パワーアシスト装置

 一般に手指麻痺のリハビリは,麻痺した指を療法士が繰り返し動かすことによってなされるが,療法士の絶対数が不足しており,その代替をロボット技術で行う研究が行われ注目されている.このようなパワーアシスト装置ではサイバーダイン社のHAL が有名であるが,手指は多くの複雑な関節が配置されており,他の関節に比べ小さく,機械的なアシストするのが難しい.そこで本研究では,上記義手技術を応用しワイヤ駆動型のリンク機構を用いた手指アシスト装置を提案している.本装置は,指関節前後の2 本の指節に固定された2つのリンクと2つ指節で4 節閉リンク機構を構成し,これらをワイヤ駆動方式で駆動させる.リンクの開き角を変えるだけで異なる指長であっても装着可能であり,これまで回復効果の高い急性期患者への適用の問題であった専用設計が必要という問題が解決される.また,これまで装着しづらいことが使用者のリハビリへのモチベーションを下げる原因となっていたが,それら装着性を改善するために,伸縮するリンクを採用し,指背面から指先に引っ掛けるだけで装着可能となる手指伸展支援装置を開発した.これら装置は,福井大学医学部との共同研究により,麻痺患者に適用し,リハビリに必要な関節可動域が満足できる駆動が可能であること,装着時間がストレスを感じない程度に短縮されたことを明らかにした.さらに,これら装置を
筋電義手同様,麻痺肢から計測される表面筋電位から制御する方法を様々提案し,その実現に向け現在試行錯誤を続けている.









3.運動機能の代償と回復を目指した表面電気刺激による筋運動制御に関する研究

表面電気刺激による筋運動制御

上肢・下肢麻痺において表面電気刺激によるリハビリテーションに関する研究にも取り組んでいる.麻痺患者の運動意図に合わせて麻痺肢に電気刺激し筋収縮を促すと,急性期・慢性期の下肢麻痺患者に対して歩行改善が見られたことを福井大学との共同研究で明らかにした.そこで,本研究では,キャリア波と呼ばれる高周波な2相性波形とバースト波と呼ばれる低周波な方形波を組み合わせた刺激波形を採用した小型の多チャンネル表面電気刺激装置を開発し,リハビリ現場,家庭でも使用できる環境を実現した.また,その刺激パラメータの最適化を行うため,低エネルギーで最も筋収縮を引き起こすパラメータが存在することを確認し,その最適化手法の検討を行なっている.さらにPET により刺激前後の脳活動の変化からそのリハビリ効果とメカニズムの解明に関する研究を行なっている.










4.人間・ロボット協調型セル生産組立システムの開発

人間ロボット協調型セル生産組立システム

 2008年度-2010年度までNEDOプロジェクトに参画し,人間と産業用ロボットが協調しながら組立作業を行うセル生産組立方式の開発研究に携わり,ロボットによる人間への物理的な作業支援(部品の供給など)やマルチメディアを用いた情報的な作業支援が作業者に与える精神的ストレスを生理指標により評価し,低ストレスとなるシステム設計の実現に関する研究を行っている.また,作業台ディスプレイを用いた作業情報支援に関する研究を行なっており,作業台ディスプレイが通常の縦置きディスプレイに比べ,作業効率を向上させ作業ストレスを低減させることを明らかにしている.